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名古屋地方裁判所 平成5年(行ウ)30号 判決

愛知県愛知郡日進町大字浅田字平子四丁目三五四番地

(納税地)名古屋市中村区太閤四丁目一〇番八号

原告

夏目正

名古屋市中村区太閤三丁目四番一号

被告

名古屋中村務署長 中嶋一夫

右指定代理人

大圖玲子

同右

佐々木博美

同右

三輪峻治

同右

大澤明広

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  原告

1  被告が昭和六二年七月九日付けで原告に対してした昭和六一年分所得税の更正処分が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の答弁

主文と同趣旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二事案の概要

一  被告は、原告が昭和六一年分の所得税についてした確定申告に対し、昭和六二年七月九日付けで更正及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、右更正処分を「本件処分」という。)を、平成元年一二月二七日付けで再更正及び過少申告加算税賦課決定処分を、さらに平成二年二月二六日付けで再更正及び過少申告加算税賦課決定処分をした。その手続の経緯は、(別紙)課税処分の経緯のとおりである(乙二及び三、弁論の全趣旨)。

二  当事者の主張

1  本案前の主張

(一) 被告

(1) 本件処分については、その後、平成元年一二月二七日付けで増額更正処分がされたことにより、その無効確認を求める訴えの利益はない。

(2) 課税処分の無効確認訴訟は、同じく課税処分の違法を問題とする取消訴訟の関係から見ると、不服申立て前置(国税通則法一一五条一項)及び出訴期間(行政事件訴訟法一四条)の制約が遵守できなかったため取消訴訟を提起できなくなった場合の例外的補充的な訴訟である。本件においては、原告は既に所得税更正処分取消請求訴訟(名古屋地方裁判所昭和六三年行ウ第四二号。以下「別件訴訟」という。)を提起し、昭和六一年分の所得税の課税を争ったのであるから、課税処分無効確認訴訟の制度的位置付けからして、同一年分の課税処分について、もはや無効確認訴訟を提起することはできないというべきである。

また、納税者が主位的に課税処分の取消しを求め、予備的にその無効確認を求める場合において、主位的請求について不服申立て前置及び出訴期間の制約が遵守されているときは、予備的請求は訴えの利益がないと解するのが相当であり、その趣旨に照して、取消訴訟が実質審理を経て確定してから後に無効確認訴訟がが提起できるとすると均衡を失するから、原告は、本件については、無効確認訴訟を求める訴えの利益を有しないというべきである。

(3) 原告は、別件訴訟を提起し、その判決が確定しているのであるから、同一年分の課税処分の無効確認の提起は、右判決の既判力に触れ不適法である。

(4) したがって、本件訴えは不適法であり、却下されるべきである。

(二) 原告(前記(一)(3)に対して)

被告が原告に対してした昭和六二年七月九日付け昭和六一年分所得税の更正決議書及び平成元年一二月二七日付け同年分所得税の更正決議書には、期首商品たな卸表及び期末商品たな卸表が別紙として添付されているが、右各商品たな卸表には別紙物件目録記載一及び三の土地が期首商品たな卸高及び期末商品たな卸高に計上されている。しかしながら、右各土地は、原告の所有地ではなく、右各商品たな卸表は虚偽捏造の文書であり、右各商品たな卸表に基づいてされた本件処分及び平成元年一二月二七日付け更正処分も公文書の偽造によりされたものである。したがって、別件訴訟の判決の当否にかかわりなく、本件処分及び課税処分が無効又は不存在であると認められるから、重大かつ明白な瑕疵がある本件処分の無効を求める本件訴えは許容されるべきである。よって、本件訴えは、適法である。

2  本案の主張(原告)

本件処分は、被告が関庄平をして捏造させた商品たな卸メモに基づきされたものである。しかし、右メモには、別紙物件目録記載一の土地は原告の所有でないのに原告所有地として、同目録記載二ないし七の土地の価格は九五〇万円のところ七〇五万円として、虚構の事実が記載されている。したがって、本件処分は、右メモを基礎として捏造されたものであり、重大かつ明白な瑕疵があるから、当然無効である。

よって、原告は、本件処分の無効であることの確認を求める。

第三当裁判所の判断

一  本案前の主張について

第二の一記載のとおり、本件処分については、処分後の平成元年一二月二七日にこれを増額する旨の再更正処分が行われたので、本件処分は、その再更正処分に吸収され、消滅したことになる。したがって、本件処分の無効の確認を求める本件訴えには訴えの利益がないというべきである(最高裁昭和五三年行ツ第五五号同五五年一一月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一三一号一三五頁参照)。

二  よって、本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 裁判官 入江猛)

(別紙)

物件目録

一 愛知県海部郡美和町大字花正字寺浦一五番

宅地 三六五万円

二 愛知県海部郡美和町大字花正字郷中六四番

三 愛知県海部郡美和町大字花正字郷中一一八番

雑種地

四 愛知県海部郡美和町大字花正字郷中一一九番

雑種地

五 愛知県海部郡美和町大字花正字寺浦五六番

六 愛知県海部郡美和町大字花正字中島七七番

七 愛知県海部郡美和町大字花正字中島七八番

畑 右二ないし七の合計金九五五万円

(別紙)

課税処分の経緯

〈省略〉

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